リースリングは、シャルドネ、ソーヴィニヨンブランと並んで白ブドウの高貴品種とされています。リースリングの産地といえば、ドイツのラインガウ地方。ラインガウ地方は、ライン川流域で世界遺産にもなっています。
8月の終わりに、リースリングを求めて、ラインガウへワイナリー巡りの旅行をしました。
ラインガウとは
ラインガウとは、フランクフルトから東へ50キロほどのライン川流域の地方で、世界遺産となっている「ライン渓谷中流上部」の一部です。ラインガウはライン川右岸にあたり、ここではライン川は東から西に流れています。右岸が南向きとなるため、太陽の恩恵を受けることと、ブドウ栽培に最適な土壌があいまって、ラインガウはドイツでも有数のブドウ産地となっています。特記すべきは、リースリングの栽培比率がほぼ9割のリースリングの産地だということです。
ライン川は、スイスアルプスからドイツを通り北海へと注ぐ川で、中流上部のマインツからコブレンツ間約65キロが世界遺産に登録されています。「父なる川」とも呼ばれるライン川。古くから沿岸地域の交通に重要な川で、現在でも貨物船が行き交う大きな川です。
リューデスハイムのケーブルカーからブドウ畑を眺める
まずは観光!ということで、リューデスハイム・アム・ラインを観光しました。
リューデスハイム・アム・ラインは、ラインガウの中心地で「ラインの真珠」とも呼ばれています。「ラインの真珠」なんて、聞いただけで行きたくなるような名前です。
リューデスハイム・アム・ラインは、ライン川に面している街で、川沿いにレストランやショップがたくさん立ち並んでいます。
リューデスハイム・アム・ラインで一番の名所といえば、ドロッセルガッセ(つぐみ横丁)です。2メートル程度の幅で、150メートルほどのゆるやかな坂道で、左右にはレストランやカフェテリア、ワイン店、お土産ショップが軒を連ねています。
午後はツーリストでひしめき合うので、ゆったりと歩きたいというかたは空いている午前中がおすすめです。
つぐみ横丁とその周辺のワインショップでは、無料で試飲ができます。好みかどうか味見してから購入できるのはありがたいです。
リューデスハイム・アム・ラインの村の後方(川と反対の方向)はゆるやかな丘になっていて、ブドウ畑が広がっています。村のなかからケーブルカーに乗ると、ブドウ畑を眺めることができるので、早速乗ってみることにしました。
チケットは、往復で10ユーロ(2023年8月現在)。
乗り場には列ができていましたが、次々に乗り込むことができ、すぐに乗ることができました。
ケーブルカーからは、絶景!!!
(ケーブルカーは、完全には囲われていないので、高所恐怖症のかたは要注意です。)
ブドウがなっているのが見えるくらいブドウ畑に近いところもあり、真下のブドウ畑も遠くの対岸もよく見えます。横たわるライン川は威厳を放っていて、癒される景色。
「白ブドウだ!」
「ここは黒ブドウ!」
「ライン川の中州が見える!」
「向こう岸には何が見えるの?」
と、見るものがたくさんあって目移りしてしまいます。
ケーブルカーを降りたところには、女神ゲルマニア像があります。1871年、ドイツ帝国統一を記念して作られたものとのこと。高さ38メートルあり、とにかく大きいことにびっくり。
女神の下には、あずまやがあり、ブドウ畑、ライン川、対岸の景色を見渡すことができます。
ここでも絶景に感動。
ケーブルカーは、上りも下りも楽しめて、ブドウ畑を一望したい人、ライン川を見渡したい人、高いところからの眺めが好きな人に、とにかくおすすめです。
ラインガウのワイナリー巡り
ラインガウのワイナリーでは、ワインを試飲して購入することができます。
試飲は無料で、予約なしで試飲ができるので、時間に束縛されずに自由に行動したい人にとってうれしいシステムです。
訪問したワイナリーをご紹介します。
ゲオルグ・ブロイヤー Georg Breuer
ゲオルグ・ブロイヤーは、リースリングの名門ともいわれる造り手。
リューデスハイムの村なかに醸造所のあるワイナリーで、街の観光と併せて行くことができるので便利です。
当主のテレーザ・ブロイヤーさんに会うことができました。若くして亡き父の後を継いだということで、芯の強さが感じられる、明るく素敵な女性でした。
まずは、ベースのリースリング「ソヴァージュ」の試飲。
フレッシュな青りんごを思わせる香りで、透明感のある酸としっかりしたミネラルがあるきりっとした味わいでした。
ベース(ランク的に下のカテゴリー)のワインは、造り手の信念が一番わかるワインだと思います。この「ソヴァージュ」は、フレッシュさを持ちながら、しっかりとした印象のあるワインでした。
続いて、3つの異なる村の畑から造られるワインの比較。
ゲオルグ・ブロイヤーは、リューデスハイム、ロルヒ、ラウエンタールに畑を所有しています。
ラウエンタールの酸が非常に美しく、エレガントな味わいでした。
急斜面という名の「テラ・モントーサ」と特級畑に相当する「ベルク・ローゼンエック」。
複雑感があり、しっかりしたボディで、まろやかなすばらしい味わいでした。
ロルヒ村のファインヘルプ(糖分を残し、少々甘さが感じられる半辛口)と、甘口ワインも試飲させていただきました😃
聖ヒルデガルド修道院 Benediktinerinnenabtei St. Hildegard
聖ヒルデガルド修道院は、リューデスハイム・アム・ラインの丘を2キロほど上ったところにある修道院。
有機栽培でワインを造っています。
聖堂内部は、左右に壁画、中央にイエス・キリストのモザイク画が美しい。
(聖堂は開放されていて、無料で見学することができます)
手入れの行き届いた庭もきれいです。
庭の向かい側にショップがあり、ワインを購入することができます。
ワインのほかに、修道院で作られているハーブ類やジャムなども売られています。
試飲カウンターがありましたが、午前中ということもあり、試飲スタッフがいなく、試飲ができませんでした。残念。
でも、ドイツに住む友人から「おいしいよ」と聞いていたので、トロッケン(辛口)を購入しました。
修道院のまわりにはブドウ畑が広がっていて、畑の様子も見ることができます。
有機栽培だけあって、畑の土には草がいっぱい茂っていました。
エーベルバッハ修道院 Kloster Eberbach
エーベルバッハ修道院は、ワインだけでなく、修道院観光として有名な名所で、ホテルとレストランも併設されている大きな施設。
リューデスハイム・アム・ラインの東、隣の隣の村エルトヴィレ・アム・ラインの丘にあります。
ツーリストがいっぱいの観光地という感じでした。
入場料は、14ユーロ(2023年8月現在)。
聖堂と中庭、以前使われていたワインセラーや食堂を見学できます。
聖堂内部は撮影禁止だったので、写真を撮ることができませんでした。
以前使われていたワインの器具が展示してある部屋。
木樽のおいてある部屋。
中庭を出たところにも、木樽の部屋がありました。
(結婚式らしきものがおこなわれた後だったので、椅子が並んでいました。写真では少し明るく見えますが、実際は樽の上のキャンドルの炎が見えるだけで、かなりの暗さ。こんな真っ暗な中、結婚式をおこなうとはびっくりです。)
ショップは、明るく広々としています。
30種類以上のワインがあり、エステートワイン、ローカルワイン、ファースト・ロケーション、グレート・ロケーションのカテゴリーに分かれていました。
ローカルワインとグレート・ロケーションのワインを試飲。(試飲は無料)
ローカルワインのリースリング・トロッケンは、オレンジを思わせる柑橘系の香りで、ミネラル感をふんだんに感じる味わいでした。
グレート・ロケーションのリースリング・トロッケンは、柑橘系の香り、ミネラルとともに凝縮感を感じる複雑な味わいでした。
エーベルバッハのワイン
エーベルバッハ修道院では、ブドウ畑を散歩しながらワインを試飲するグループツアーがあったのですが、ドイツ語のみだったのであきらめました。
シュロス・フォルラーツ Schloss Vollrads
シュロス・フォルラーツは、老舗で大手のワイナリー。
リューデスハイムの隣村エストリヒ・ヴィンケルの丘に位置します。
エントランスを入ると、広いオープンスペースがあり、テーブルとベンチが並んでいて、ワインを飲みながら軽食ができるようになっています。
みんなゆっくりとくつろいでグラスワインまたはボトルワインを楽しんでいる様子でした。休日のピクニックといったところ。
本当は、併設のレストランで食事がしたかったのですが、ちょうど貸切りパーティーのためクローズだといわれ、泣く泣くあきらめました。
オープンスペースには屋台があり、ソーセージサンドやピザを販売していたので、ここで軽食とグラスワインを楽しむことに。
ドイツといえばソーセージ、ということで、ソーセージサンドを食べました。
グラスワインは、グラス代3ユーロを払い、飲み終わったらグラス代を返却してくれます。
ボトルワインのほうが割安なので、3人以上のグループのドイツ人たちはボトルワインを飲んでいました。
ショップではワインの試飲・購入ができます。(試飲は無料)
デイリーワイン的なリースリング「ゾンマー(夏という意味)」は、グレープフルーツやレモンのような酸味がかなり感じられる味わいでした。夏、暑いときに、プールサイドで飲みたいような味わいでした。
エステートワイン・カテゴリーのリースリング・トロッケンは、さっぱりさわやかな味わいでした。
ローカルワイン・カテゴリーのリースリング・トロッケンのヴィンケルは、フルーティーでフラワリーな、ザ・リースリングといったイメージでした。
アウスレーゼの甘口は、甘さと酸のバランスがとてもよく、エレガントな味わいでした。
トニー・ヨースト Toni Jost
トニー・ヨーストは、リューデスハイムからライン川を渡ったバハラッハ村に醸造所があり、バハラッハ村とラインガウのヴァルフ村に畑を所有しています。
ラインガウ付近のライン川には橋がないので、川の向こうに行くためにはフェリーに乗らなくてはいけません。
私は川の渡り方もわからなかったライン川初心者で、ホテルのフロントスタッフのかたにフェリーで渡ることを教えてもらいました。
リューデスハイムのフェリー・ターミナルでフェリーに乗り、向こう岸へ。
川の上から見る南向き斜面のブドウ畑も美しい。
トニー・ヨーストに行ったのは、Jahrgangspräsentation(ヴィンテージプレゼンテーション)が目的でした。
ヴィンテージプレゼンテーションは、その年にリリースされるワインの試飲会です。
イタリアでは、ヴィンテージプレゼンテーションは、リリース直前に大きなイベント会場でおこなわれるため、ワイナリーごとのヴィンテージプレゼンテーションというのは私にとっては新鮮でした。興味津々で醸造所に向かいました。
バハラッハ村の中心地にあるトニー・ヨースト。
エントランスにワインがずらりと並べられていて、自由に試飲することができました。(試飲は無料)
当主のセシリア・ヨーストさんと父のペーター・ヨーストさんに会うことができました。
トニー・ヨーストとの出会いは、10年前。フィレンツェのコルシーニ庭園でおこなわれたリースリングの試飲会にトニー・ヨーストが出展していたのです。10年越しにやっと現地に行くことができ、感激。
さわやかなリースリングからボリューム感のあるリースリングまで、強すぎない酸味、やわらかな味わいという共通点がありました。
ヴィンテージプレゼンテーションは要予約でしたが、普段は土曜の午後に予約なしでオープンしています。
トニー・ヨーストのワイン
ラインガウのワイナリー巡りのまとめ
ラインガウとその周辺でのワイナリー巡りは、個人旅行だと、意外とセラーの見学ができないのだとわかりました。
訪問したワイナリー以外にも、事前にいくつかワイナリーにメールで問い合わせをしましたが、10人以上など大きなグループの場合にセラーの見学ツアーが可能、グループワインツアーをやっているがドイツ語のみなど、条件がありました。
トスカーナではワインツーリズムのブームで、多くのワイナリーで蔵の見学プランがいくつも用意されていて少人数でも見学ができますが、ラインガウではそこまでのワインツーリズム・ブームはまだないようです。
ワイナリーではワインの試飲を無料でおこなっていて、試飲をしてから購入ができるというのはよい点だと思いました。(トスカーナだと試飲だけでも有料のワイナリーが大半です。)
トスカーナとの比較のようなまとめになってしまいましたが、ラインガウでのワイナリー巡り旅行では、世界遺産の景色を目に焼きつけ、ライン川沿いに広がるブドウ畑に感動し、そしてリースリングを堪能しました。
バカンス旅行だったので、ワインセミナーのようなテクニカルな試飲をしたわけではありませんが、ラインガウのワイナリーに行ってみたいかたの参考に少しでもなればと思います。また、旅行の予定がないかたでも「ラインガウってこんなところなんだー」とリースリングを飲むきっかけになればうれしいです。産地の景色を想像しながらワインを飲むのはよいものです。
おまけ
ドイツ人のワインを飲む量がとにかくすごい。フィレンツェのバールで朝からビールを飲むドイツ人の姿をよく見かけるので、ドイツ人のビール消費量が半端ないことは知っていましたが、ワインも飲む飲む。ワイナリーの飲食スペースでの飲みっぷりもすごかったですし、試飲会で何種類ものワインを吐き出さずに飲み干すパワーもすごかったです。
体の作りが違うのを目の当たりにして、ドイツ人の鉄の胃と肝臓をうらやましく思いました。
スーパーでは4ユーロくらいの激安リースリングも売られていました。リースリングはワイナリーで購入したため、リースリング以外の品種の激安ワインをスーパーで買ってみました(ケルナーとシルヴァーナー)。フレッシュでかろやかな味わいで、フードフレンドリーなワインでした。スーパーで安価なワインを買うのも、地元の人のデイリーのワインライフを垣間見ることができ、おもしろいです。
1リットルのワインボトルがあることにびっくり。(イタリアでは、750mlまたはマグナムボトルの1500mlとなるため)
ワイナリーでベースのワインを購入したときに「なんか大きいな?」と思ってよく見てみたら、1リットルでした。
スーパーでも、激安ワインは1リットルでした。ドイツ人は、飲む量が多いだけに、1リットルボトルの需要があるのだろうと勝手に想像しました。1リットルボトルは、お得感があります。