北イタリア、標高838メートルのワイナリーへ


イタリアというと、太陽が降り注ぐ暑い国というイメージが強いかもしれません。でも、北イタリアにはアルプス山脈が連なり、夏には多くの人が訪れる避暑地があります。

夏、オーストリアとの国境に接するトレンティーノ・アルト・アディジェ州の北部、ボルツァーノを訪れました。
山岳地帯にある小さなワイナリーにも足を運びましたので、今回はそのときの様子をお伝えします。

ボルツァーノとは

ボルツァーノは、トレンティーノ・アルト・アディジェ州の州都トレントより、さらに北に位置する町。フィレンツェから列車で約3時間半です。

駅に降り立った瞬間から、フィレンツェとはまったく違う空気を感じます。
すぐ近くまで高い山々が迫り、街ではイタリア語だけでなくドイツ語も飛び交う。
この地域ではイタリア語とドイツ語がともに公用語なので、駅や街の案内も2か国語で表示されています。

そして何より印象的なのが、澄んだ空気。
「ここはイタリアだけれど、いつものイタリアとは少し違う」
そんな感覚を覚える町です。

山の上にあるワイナリーへ

今回訪れたのは、ボルツァーノから車で30分ほど山を上ったところにある、Hocheggという小さなワイナリー。
蔵の見学とワインの試飲ができると知り、訪ねてみることにしました。
ところが、そこへたどり着くまでが、ちょっとした冒険でした。

車でどんどん山を上っていくと、道は次第に細くなり、周囲には人の姿もなくなっていきます。
Google Mapsも、もはや頼りにならないほどの山道。途中で道がわからなくなってしまいました。
誰かに聞こうにも人が歩いていない。ワイナリーに電話しようにも、電波がない。
どうしようかと思っていたところ、ようやく一人の人を見つけ、尋ねてみると、親切に道を教えてくれました。

そして、ようやく到着。
そこで待っていたのは、苦労して来た甲斐があったと思わせるような景色でした。

標高838メートル、ブドウ栽培の極限

山々に囲まれたワイナリー。はるか下には町が見え、その周囲には急斜面に沿ってブドウ畑が広がっています。

迎えてくれたのは、若いオーナー。

ここは標高838メートル。
「このあたりでは、ブドウ栽培の限界に近い場所です」
そう話しながら、この土地でワインを造ることへの情熱を語ってくれました。

もともとは自家用にワインを造っていたのが始まりだったそうです。現在、5ヘクタールの畑で栽培しているのは、シャルドネ、ピノ・ビアンコ、ピノ・ネロ。冷涼な山の気候を生かした品種が選ばれています。

そして、このブドウ畑がとにかくすごい。
斜面の傾斜は40~50度。場所によっては70度にもなるそうです。
70度……。
ほとんど垂直に近い斜面です。
そこに立ってみると、ここで一年を通してブドウ畑の仕事をすることが、どれほど大変なのか想像できます。


それでも、この厳しい環境だからこそ生まれるワインがある。

ワイン造りでは、発酵に丸みを帯びたセメントタンクを使い、熟成にはフレンチオークを使用しています。



小規模なワイナリーだからこそ、一つひとつの工程に造り手の考えが感じられます。

山の中で味わうワイン

蔵を見学した後はテイスティング。
テイスティングルームに入ると、まず目に入ったのが一枚板で作られた大きなテーブル。


山の中にあるワイナリーの雰囲気にぴったりで、とても素敵でした。

この場所で飲むワインは、それだけで特別なものに感じます。

試飲したのは、ピノ・ビアンコ、シャルドネ、ピノ・ネロのロゼ、ピノ・ネロ。
どのワインにも共通して感じたのは、冷涼な土地ならではのミネラル感。
シャープな酸がありながら、しっかりとしたボディもあり、全体的に洗練された印象です。

なかでも特に気に入ったのが、ピノ・ビアンコとロゼでした。
ピノ・ビアンコはオーク樽で発酵させ、マロラクティック発酵も行っています。美しい酸がありながら、ふくよかでリッチな味わい。
一方のロゼは、フレッシュさを重視して早めに収穫したピノ・ネロから造られています。フレッシュな香りとキリッとした味わいで、とてもきれいな印象。


気に入ったこの2本は、ワイナリーで購入して帰りました。

ワイナリーを訪れたとき、私は必ずワインを買って帰ります。気に入ったワインを自宅でも楽しみたいという理由もあります。でも、それだけではありません。
ワイナリーで買ったワインは、後から飲んだときに、そのとき見た景色、ブドウ畑の風景、その土地の空気、ワイナリーの空間、試飲したときの香りが、ふっとよみがえってきます。
買うときは、これから飲む「未来」を楽しみにする。そして実際に飲むときは、訪れた「過去」を思い出して楽しむ。
一杯のワインを通して、現在と未来と過去がつながる。それが、私がワイナリーでワインを買うのが好きな理由のひとつです。
今回の2本も、きっと飲むたびに、この山の景色を思い出すのだと思います。

ここに泊まってみたいと思った美しい場所

ワイナリーで過ごした時間は、1時間半ほど。それでも、帰る頃にはすっかりこの場所が好きになっていました。
「ここに泊まれたらいいのに」そう思ってしまうほど。

ワインを飲みながら、目の前に広がる山々を眺める。何かをするわけでもなく、ただそこに座って、ゆっくりと時間を過ごす。それだけで幸せな気持ちになれそうです。


じつは、このワイナリーには宿泊できる部屋もあるそう。
次に訪れる機会があれば、ぜひ泊まってみたいと思っています。

たどり着くまでには少し苦労したけれど、その先にあったのは、山とブドウ畑とワインに囲まれた、とても静かで美しい場所でした。
そして、そこで出会ったワインは、これから先、グラスに注ぐたびに、この日の景色を思い出させてくれるはず。
ワインを飲むことは、その土地で過ごした時間を、もう一度味わうことなのかもしれません。
そんなことを感じた、北イタリアの山の上でのワイナリー訪問でした。

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